奈良事件で考えるべきこと [医療]
奈良の県立病院で妊婦さんが分娩中に頭痛を訴え、意識不明になり、転送を18もの病院で断られ、最終的にお亡くなりになったという、悲しい事件がありました。
いつも覗かせてもらっている、新小児科医のつぶやき、ある産婦人科医のひとりごと、いなか小児科医、などで詳細、および何日かにわたり、問題が検討されています。
経過をまとめてみます。
1.妊婦さんが分娩中に頭痛をうったえ、意識を失った。(午前0時)産科医と内科医とで診察した上、陣痛に伴う意識消失発作と診断し、経過観察とした。
2.その後痙攣をおこし(午前1時半ごろ)、産科医は子癇発作と考え、その処置を行った。
3.転送が必要と判断し、転送先を探すも18もの病院に断られ、国立循環器センターにようやく搬送された。(午前4時半搬出、午前6時到着)
4.患者さんは脳内出血を併発していて、緊急帝王切開、脳外科による手術がおこなわれた。子供は無事であったが、妊婦さんは後日死亡した。
脳内出血が先であったのか、子癇発作の前兆による意識消失+子癇発作およびそれにともなう脳出血、であったのかわかりません。
そして、これが、どれくらいの規模の病院で、どれくらいのスタッフがそろっていたら、どの段階で診断、救命しえたのか、まったくわかりません。
いろいろ議論されていますが、専門外のわたしがそとからこの経過をみると、
きわめて救命が難しかった症例ではないかと思われます。
もちろん、医学的にはどういうアプローチがありえたかの議論はあります。
助けられなかった命を、どうしていれば助けられたのか、そういう可能性はあったのか、目の前の命をひとつ失うたびに、そう模索するのが医者の性と言うものです。
しかしながら、それは医者のおごりと言うか、患者さんの要求しすぎというか、そんなに医学はすすんでいません。どうしたって助けられない症例はあるのです。
この事件で一般に議論すべきことは、医学的にはどうすべきであったかではなく、この患者さんが受け入れてもらえる病院が奈良県になかった、と言う事実です。
そもそも、この患者さんには産科、小児科、脳外科、麻酔科、レントゲン技師、が必要です。夜中にそれだけそろっている病院はどれだけあるでしょう?
全科の医者が夜中も当直していて、いつでも手術ができる病院は、そんなにたくさんありません。わたしが研修医のころは、そいういう病院で研修しましたが、私の地元の県にはそんな病院はありません。
ほんとうの重症の患者さんは、夜中は死ぬしかないな、と思ったことがあります。これは事実だと思います。
24時間365日、全国津々浦々、医療は充実していないのです。
そもそも、充実自体、幻想なのです。
医師の超過勤務を超えに超えた、超過労状態のうえ、いまの医療がなりたっていることを、一体どれほどの、一般の方々がお気づきになっているでしょうか?お気づきになっていたとしても、「お医者さんはたいへんねえ、でもやってもらわないと、こまるしねえ」、くらいの認識ではないかと思います。
でも、崩壊はすぐそこです。もう、日本の医療者は息絶え絶えです。
真剣に、医療システムをたてなおすことを、国民ひとりひとりが考えねばなりません。もちろん、お金がかかります。現在の医療は高額なものばかりです。自己負担の増額や税金の増額は覚悟しなければなりません。
しかし、それもさることながら、政府がそうやって集めたお金を、的確、適切に使えるかどうかが、たいへん大事なことです。国民は政府のすることに、目を見張らなければなりません。
一体短期間で、どれくらいのことができるのか、何をしたらいいのか、そもそも医者の絶対数は少ないわけだし、どうしたらいいのかわかりません。
夜中は、みんな覚悟を決める(なにか重病になったら死ぬしかない)ことくらいかもしれません。せめて昼間であれば、助かるのであれば、万々歳、くらいなもんです。
でも、お産は夜中によくありますね、、、、。
夜中のお産は母子とも命を覚悟しなくてはいけないのかもしれません。そもそも、病院で産めることがラッキーになる時代かもしれません。
享受してあたりまえ、の気持ちは捨てるべきです。
しかしながら、市場原理を医療システムに持ち込むのも、私は反対です。
この建て直しには、時間、お金、人材が膨大にかかることを、みな認識しつつ、長期視野で真剣に取り組むしかないと思います。
そして、次世代への教育。
なにを大切に考え、何を自己の主軸として生きていくのか。基本的な物事の考え方。WIN-WINであること。
この崩壊しかかった医療制度が崩壊するとしても、焼け野原から芽が出るような教育を、われわれは次世代にしなくてはいけません。
おお、このニュース、知っておったけど転院を断られたのが18件とな?!
しかし、他人事じゃないっす。
産婦人科に限らず、本当に夜中に健康状態が急変したらと思うとぞっとしちまいます。
幸い大したことはなかったが、夜中にかけこんだ小児科医がひどい誤診をして、ぴょうんきちさんにセカンドオピニオンをもらっていなければ、ハハはノイローゼになっていたかも。
などという経験をした身であれば。
将来が、教育にある、次世代にある、という主張には同意します。
とりあえず、それだけでも言いたくて、コメントしてみました。
by ai (2006-10-25 21:24)
こんばんは
トラックバックいただきありがとうございます。
痛ましい事件でした。我々がこの事件から教訓にするべきことは何であるか?これを、深く考える必要があると感じます。
こちらからもトラックバックさせていただきました。
by いなか小児科医 (2006-10-26 00:00)
いなか小児科医さん、コメント、トラバ、ありがとうございます。
私たちがこれから何ができるのか、何をしたらいいのか、大きな問題だとおもいます。
aiさん、コメントありがとー。
母としては、これからの世代の事を思うと、心配がつきませんね、お互い、、、、。
ぜひ母としての立場から、医療に関して提言してください。
夜中の出来事は、心配も増幅するし、子供が小さいとなおさらです。
けれど、十分な医療が供給されない状況にきています。
医者の絶対的数の不足はいかんともしえません。
となると、母の、子供をまもるための防衛策は何だと思いますか?
夜中の救急診療に限ってみた場合、
医療者と患者側がお互い譲り合えてWin-Winになれるポイントって、どこだと思いますか?
by pyonkichi (2006-10-26 01:12)
こんにちは。夜中に何か起きると自分の子供のことでもかなり不安になります。小児科医だからとかはまったく関係ありませんね。
今回に限らず、マスコミなどで報道されるといろいろなコメンテーターが出てきてお話されていますが、いったいどれほどの方々がわかっていらっしゃるのでしょうか。いささか、疑問です。
各県で、きちんとした搬送ができるようになればと思いますが、総合周産期医療センターが整備されている県でさえ、なかなか対応し切れていないのが現状のようです。
県単位ではなく、国が乗り出して整備していく必要があると思うのですが。
by 元小児科医 (2006-10-26 10:29)
もと小児科医さん、こんにちは。
アメリカにいるので、いまの日本のマスメディアの状況がわかりませんが、なんとなく想像はつきます。
面白くて、もしくは悲惨で、視聴率が上がればそれでいいのでしょう。本質を切り開く必要は彼らにはないんだとおもっています。
いつか、書きましたが、
人材に対してお金をかけないといけないと、痛切におもいます。
国は道路工事ばかりにお金をついやしている場合じゃありませんよね。
by pyonkichi (2006-10-26 18:25)
コメントレスありがとうございます。最近のマスコミは、高校の履修科目の問題がにぎわっております。というのも、世界史が必修なのに、受験に必要ないからといって教えず、全国で3万人ほどの高校生が今のままだと卒業できないようです。ゆとり教育で時間が少なくなったからといいますが、単にサボっていたとしか思えません。これもコメンテーターやタレントの司会者がわかったようなことをおっしゃっておられますが。子供の教育をお国にお願いできる状況ではありません。今の日本は。教育にもお金をかけませんし。それだけ、国に体力がないのでしょうね。
by 元小児科医 (2006-10-27 09:04)
日本の救命救急は劣勢のなかゼロ戦で必死に戦ってるのだけど、もう煮詰まってどないもこないもという戦況、そういう状況で大本営は当事者能力がなくて実質的には玉砕命令を出しております。
ろくな補充もなく使い切られる運命ってわかってて、戦闘機乗りを志望する者も年々減少中、、。 っていうかミッドウェイ海戦はほぼ終わって熟練パイロットもだいぶ消えて、新規のパイロットを教える人もいなくなってるかも・・
しょうじき申して私は今回の事件での人々の反応を見て、日本の医療の将来をかなり諦めました。
by ちゃぶ (2006-10-28 22:20)
ちゃぶどん、ども!いったい、これから日本の医療はどうなっていくのか、、、ほんとに心配です。
そうそう、ちゃぶどんがブログにかいてた、老人介護施設の問題もありますよね。
うちの母も祖父母あんど大叔母を介護していますが、
老人介護はほんとたいへんです。
介護しているほうが倒れそうです。
by pyonkichi (2006-10-30 20:30)
福島の時に較べると少し風向きが変わったように思います。マスコミは相変わらずの切り捨て御免でとっと立ち去っていきましたが、ネット世論の反応は少し違う感触を持ちました。
もちろん従来どおりの医者滅多切り論は多数派でしたが、立ち止まって考えてみようと思う人間が増えたような気がします。マスコミ不信もジワジワと広がっている影響かと考えています。
私の意見も前なら相当な反発が来てもおかしくなかったと思いますが、予想以上に非医療関係者の共感を得たような気がします。こういう流れは大切かと思います。
なんのかんのと文句を垂れても、そう簡単に医者は辞められませんからね。
by Yosyan (2006-11-01 18:48)
Yasyan先生、コメントありがとうございます。
風向きがすこしずつ変わるのであれば、ほんとうにいいですね。
ひとりひとりがこつこつと発信していくことが大事なんだと思います。
先生の毎日のご提言には頭が下がります。
わたしも微力ながら、ときどき発信したいと思っています。
by pyonkichi (2006-11-02 02:18)
母として、医療面で自分の子をいかに守るか提言を、ということだったので、考えてみました。
1.なか待合室の設置
より効率的に患者を診察する方法を考えてみました。近所の皮膚科で実行されているのですが、待合室と診察室のあいだに「なか待合室」というのがあり、患者はそこで患部を露出させたまま先生の登場(?)を待つのです。
小児科の場合、診察室に入ってから服を脱がせたり、だっこして椅子に座ったり、準備が大変ですよね。「先生を待たすな」みたいな風潮も困り者ですが、そうならないような心遣いがあれば良いのでは?
効果として、医師ひとりあたりの労働時間が減り、ライフ/ワーク・バランスがとれるようになれば、職を離れる方も少なくなるのでは?
2.看護士・薬剤師などへの権限委譲
風邪など緊急を要する診断が必要ではない場合、親としては「お薬さえもらえれば」というときが度々おこります。診察なしに薬、これは実際おこなわれている例もあるのではないのでしょうか?
正統な方法でない?はい、すみません。
3.海外からの人材登用
すでに介護や看護ではおこなわれているとか?市場が国際化する以上、抵抗できない流れかもしれません。
そして、最後に。
ハハとしては、現在の医療の状況、特に地域の情報についてしっかりアンテナをはりめぐらせて情報収集に努めておりますです。ぴょん吉さんの意見を読んだあとでは、大学病院に頼りたくはないけど、夜間にそこしか開いてなければ行かざるをえず。前にぎゃふんと言わされた病院も施設としては整っている病院で…
ああ、秋から冬にかけて風邪をひきまくるウチの子、今日も咳がひどい。ハハの心配はつきません。
by ai (2006-11-03 22:27)
aiどの、提言ありがとうございます。
1については、、、もはやそれくらいでは追いつかないのでは?と思ったり。あと、小児科ではどんなふうに子供が診察室にはいってくるかとかも、観察のポイントなんで(はしってくるなら、まず大丈夫)微妙ですね。
2はいいかも、と思いました。アメリカでは結構いろいろ薬がスーパーで手に入ります。
風邪薬をちょっともらいたいがけ、のひとも多いのは確かですね。
インフルエンザの診断キットは市販にしたらいいと思っているんですけどね。
3は、、、わたしは個人的にはいやかな。日本人どうしても、意思の疎通が行き届かなくて訴訟の引き金になっているようなので、
言葉のまともに通じない医師とかだとどうなるんでしょう?
それとも外人の先生だからと諦めもつくのかしらん。
そうやねー、ハハの心配はつきないよね。
でもまあ、大きくなるまでの辛抱ね。
母が病気やくすりの知識をしっかり持っておく、というのは大事かなあと私は思っています。
母親学級;小児科外来見学、とかあるといいかも。どお?
同じような症状のこどもを50人くらい診て、みな数日で元気になる経過をみれば、このくらいだとうちの子は大丈夫そうだ、という目を持てるような気がするんだけど。
by pyonkichi (2006-11-04 04:21)
レスありがとう。
では、そういうことで2番を押し進めましょう。Yeah!
>50人
は診なくても、一人でも子どもを育てた経験があれば、大分ちがいますよねん。
薬は勉強します。もうすこしわかりやすい名前にしてくり、と製薬会社には言いたい。
by ai (2006-11-06 21:03)