脱水の治療から日本の医療を想う [医療]
嗚呼、ER!のエントリーで、脱水の治療は生食でまちがってないよとのコメントをいただきましたので、
いちおう、アメリカのCDC(center for disease control and prevention)の推薦する脱水の治療を掲載しておきますね。たしかに生食は「点滴する場合」の第一選択です。
もっとも、下痢をしているときは乳酸リンゲルのほうが好ましいとありますが。
しかし、思うんですが、
アメリカって、ほんとにORS(oral rehydration solution)が主流なんですね。とにかく飲水!
重度脱水になるまで、点滴をしない方針のようです。つまり、血圧がさがったり頻脈になるまで点滴しないんですね。
そうなると、血管内脱水は明らかなんで、まずバイタルを確保するためには、細胞外液をいれるのは当然っつーか。
日本は点滴をするタイミングが明らかに早いんで、まー、そっくりまねる必要はないんとちゃうかな、と思ったりもするんですが、これはやっぱり古い考えなんでしょうか?
ちなみに中等度脱水の治療をみていただくと、50-100ml/kgの水分を3−4時間ごとで飲ます、ってあるんですけど、、、、
ぴょんちゃんは14kg. あんなにお腹が痛い状態で、腸もさっぱり動いてないのに、700ml−1400mlを3−4時間ごとに飲ますって、結構無理。大人でも無理ちゃうか?
おそるべし、アメリカ医療。ここまで医療費を節約したいのか?
あと、低張液はいれちゃいかん、ってことで、文献が引用してあるんだけど、
2000年のAmerican Journal of Emergency Medicineの文献なんですが、こいつがひどいのね。
1歳半の子供に5%デキストランin waterを40ml/kg、30分で急速静注して、脳浮腫を起こして痙攣重責、死亡させた症例(2例)の報告なんですね。こいつはどっちかっていうと、医療ミスか、殺人かとわたしは思っちまいました。そんなん、ふつうするかー?
こういうのを引用して、低張液はいかん、って言っても、極端すぎて、レベルも低すぎて、よくわからん、というのが私の感想です。基本維持輸液は5%デキストラン+1/2生食だし、日本とやっぱびみょーに違いますね。
そういうわけで、今の日本での考え方の主流をだれかおせーて。
それにしても、、、、
アメリカではお金のある人がいい医療を受けられる、と思っていましたが、そうじゃないとわかってきました。
お金のある人が、今の日本の標準かそれ以下の医療をうけられる、というレベルだと思います。
ちゃんとした保険にはいっていたら、治療を拒否されない、ってだけの話なんだと思いました。
日本のみなさん!
ほんとに日本の医療はすばらしいのよー。
税金をたくさん払うのを覚悟して、いまの医療をまもらないと!!
追記です
ORSのレシピはこちら
http://rehydrate.org/solutions/homemade.htm
・低張性脱水なら外来でけっこうよく拝見します。当初Na130mEq/lだったなんて子に、「尿が出るまでT1」という本邦小児科の従来の方式は恐いと私は思います。私は、ね。当院でも、他の先生方はあんまり怖がっておられないようです。小児の自己回復力に救われているだけのような気もします。
・高張性脱水も初期輸液は生食だと思います。T1ではNaの下降が急激すぎる可能性があります。まずは循環血漿量を確保すること。あとはこまめに再測定しながら変更を加えます。とはいいながら、実際に外来診療で高張性脱水の子を拝見したことはありませんので、机上演習的なお話ではあります。
・ORSは、3分診療で「水分を摂るようにね」と言って帰すときの「水分」という漠然とした概念ではありません。
by yamakaw (2006-11-29 21:53)
yamakaw先生さっそくのコメントありがとうございます。
>ORSは、3分診療で「水分を摂るようにね」と言って帰すときの「水分」という漠然とした概念ではありません。
そうなんですが、実際はこちらでもそんなもんですよ。娘は明らかに中等度脱水でしたが、3分診療でパンフレットを渡され、それにはPure waterをひたすら飲めと書いてありました。
点滴はしない、ORSの指導もしないってのはいまいちだと思いませんか?
まあ、私がこちらで出会った小児科医は2人だけなので、あたりが悪かっただけかもしれませんが。
あと、恥をしのんで質問です。T1でそんなにNa濃度ってさがりますか?実際はあんまりさがらないように思うのですが、それは腎臓がちゃんと機能しているから?
理論的には細胞外にNaも水も拡散するので、下がりそうですが、水分は細胞内にも移行するはずなので、相対的には下がらないのでは??と思ったり。
生食はちょっと高張液ですよね。すると、細胞内から水分を引き出して、細胞内脱水を助長する危険性がある、ということでT1が開発されたのだと思っていました。
もちろん膠質浸透圧も考慮に入れるべきなんでしょうが。
で、怖いと思うとか下がらないと思うとか下がる可能性があるってのはもひとつ不明瞭なかいわなので、実際の根拠となる論文、Evidence、もしくは教科書のここをよめ!というのがあればぜひ教えてください。なんせまる7年も臨床を離れていますんで。
by pyonkichi (2006-11-29 23:13)
あと、低張性脱水と判明したときは、わたしはメインのNa濃度をあげるか、生食に切り替えていたようなきがしますが。
そういうことなら最初から生食ってことなのかしら?
それにしても1000mlの生食がくるとおったまげますよ。
透析するんじゃないんだしねー。
アメリカンサイズは200mlとかのボトルはないんですねー。
by pyonkichi (2006-11-30 00:07)
http://adc.bmj.com/cgi/content/abstract/91/3/226 とかでしょうか。ナトリウムの下がる幅は確かに小さいのですが。でも日常診療ベースでもたしかに下がってます。それと、あらためて文献検索をした過程で、胃腸炎時のADHの分泌云々を論じた一連の文献に当たりまして、興味を引かれています。
・十分な根拠を持ってT1が良いと主張する文献は見たことがありません。本邦からしか出る可能性はないんですけど。このさい、○○大の偉い先生がお作りになったから良いんだみたいな伝承は無視するとして。
・自験でも、T1で大量輸液(尿が出るまでT1を2本目3本目と・・・)使っていた時代も、実際に低ナトリウムで痙攣をおこした子には当たったことがありません。でもそれはダンプトラックに当たったことがないのと同じで、当たった時が医者生命の終わりどきになったんじゃないかと思います。世の中にはそういう症例もあると聞き及びます。
・ORSについては、彼の国ではガイドラインを出した後は、それががどれほど遵守されているかの調査まで行われています。けっこう遵守されていたように思いますが・・・ご指摘のpure waterを飲めと言う指導は確かにORSを用いるガイドラインを外れています。それは掛かられた施設がそういう施設だったと言うことで、それをもって米国全体の評価にはならないと思います。でも・・・ひどい施設ではありますね。
・ORSも、渡して帰すんじゃなく、クリニックで実際に飲み方を指導して、数時間かけて飲めるのを確認してから帰すのが正しいやりかただったと記憶しています。現場にとってはたいへんな手間で、さっさと点滴するほうがなんぼか楽かもしれません。成育ではそれを地道にやってると聞き及びますが、点滴でなくてもずいぶん行けるものだなと、医師や看護スタッフの意識もずいぶん変わったそうです。私のところではそこまで徹底できなくてお恥ずかしいかぎりです。
by yamakaw (2006-11-30 19:21)
生食は安価だから、各種の大きさを取りそろえておくコスト(保管棚の余地やら見分ける手間やら)の方が、余りを使い捨てにするコストより高いんじゃないかと思いますが。少なくとも、目先の勘定では。
でもどっちが事故率が高くなるんでしょうね。取り違える危険と、うっかり過剰輸液してしまう危険と。事故防止のコストまで含めたら、どっちが高くつくんだか、私にもよくわかりません。
by yamakaw (2006-11-30 19:28)
yamakaw先生、お忙しい中、お返事ありがとうございました。なるほどー。こういう文献をみると納得しやすいですねー。ふむふむ。勉強になりました。
>ORSも、渡して帰すんじゃなく、クリニックで実際に飲み方を指導して、数時間かけて飲めるのを確認してから帰すのが正しいやりかただったと記憶しています。
そうでしょうそうでしょう!そうあるべきですよね。日本でもそうやってできたら、たしかに点滴の数はへるし、家でもSolutionは作れるし、コストベネフィットは大きいと思います。日本での脱水症の点滴の適応はちょっと曖昧な場合がおおいですし。わりと軽度脱水でも点滴してしまったりしますよね。病院全体として、指導を含めたそういうシステムが取り入れられるのは多いに賛成です。
いいわけがましいですが、うちもだいぶORSはトライしたんですけどね−、ERにかかる前に。そういう状況を考えてほしいもんです>アメリカ人医師よ。
>指摘のpure waterを飲めと言う指導は確かにORSを用いるガイドラインを外れています。それは掛かられた施設がそういう施設だったと言うことで、
施設っていうか、、、まだよくわからないんですが、こちらは施設より、医者をさがすのがさきなんですね。自分がもっている保険会社に登録してある医者のリストがあって、そこからよくわからないけど、卒業大学と年度とかみて、てきとうにかかるわけです。
うちの保険はそれでも、どこにでもかかれる保険なので、そんなにしばりはきつくないんですが、なんというか、この病院にかかっているから、みたいな日本で感じる安心感(?病院にたいする信頼?みたいなもの)がないんですね。
医者個人の判断にものすごく左右されているような。お医者さんたちちゃんとカンファレンスとか勉強会とかしてるのよねえ???とかちょっと不安になったりして。
重病になればカンファレンスにかけたりはしてもらえるんだろうけど。
うーん、こんどは大きい小児病院の外来クリニックにかかってみる事にします。
(そいういうことがないほうがいいけど)
でも、娘をみてくれたクリニックとERはここでの2大小児病院にそれぞれぞくしている医者なんですけどねえ、、、、、、。
よくわかりません。
>生食は安価だから、各種の大きさを取りそろえておくコスト(保管棚の余地やら見分ける手間やら)の方が、余りを使い捨てにするコストより高いんじゃないかと思いますが。
そのとおりなんでしょうね。とにかく、アメリカは使い捨ての人種です。スーパーでも何でも安いんですが、安くて量がものすごく多いんです。安く買って、いらない分は捨てろって事みたいです。日本の「もったいない」なんて気持ちはこれっぽっちもなさそう。京都議定書なんかアメリカ人が気にするはずがないのが、ここにきてよくわかりましたよ。
とりちがいといえば、先日こちらの小児病院のNICUで、大人用ヘパリン(濃度が濃いものと思われます)を超未熟児に投与してしまって、3人ほど亡くなったような事がありました。
by pyonkichi (2006-12-01 03:10)